事業全体の背景と目的
日本における高齢化率(65歳以上の人口比率)は2030年には31.6%にも達します(平成28年版高齢社会白書, 内閣府)。一方、生産年齢人口は現在よりも700万人以上減少し、6,700万人程度になると予想されています。高齢化に伴い増え続ける医療・介護費を負担し、介護そのものも担う生産年齢人口が減少することは、日本において最大かつ喫緊の問題になっています。このため、介護サービスの生産性を向上させ介護する側の負担を減らし、そして高齢者が増えても要介護者の人数を増加させない双方の努力が必要です。
本事業では、IoTデバイスを用いて、健康・介護サービス提供者やサービス利用者等の心と体の状態、行動データを収集します。そして、これらをAI技術で知識化することにより、健康・介護サービスの効果を高め、生産性を向上させることを目標としています。この目標を実現させるために、必要な技術開発と技術の社会実装研究を実施します。
この事業には、日本の研究機関、民間企業、大学が関わっており、それらが連携・共同し、技術開発、実証研究等を進めていきます。
図 高齢化の推移と将来推計(平成28年版高齢社会白書, 内閣府より引用)
研究の目的と内容(地域介護予防の知識構造化チーム)
地域における介護予防の担い手として、高齢者に学習の場を提供し、主体的な予防活動を行えるように支援していくことは、高齢者の社会参加の促進と介護予防の両面において有効な方法です。
高齢者が介護予防について学ぶ場として、介護予防リーダー養成講座があります。このリーダー養成講座は、高齢者の学習のみならず、活動支援の手段として実績を挙げてきました。この講座では、座学で要介護の原因等について学ぶだけでなく、他の地域での介護予防活動の実習や行動計画の作成も行います。養成講座を修了した介護予防リーダーは現在、①清掃・防犯、②栄養、③口腔、④サロンの4つの介護予防活動を行っています。
養成講座の実施者がこれまでに暗黙知として蓄積してきた知識は膨大にあります。まずは、このような知識を抽出し、産業技術総合研究所が開発した知識構造化システムを用いて構造化していきます。そして、AI技術を用いて、介護予防リーダーの支援システムを構築していきます。この際、介護予防リーダーの活動支援者が集う場(まちづくり検討会議)で、この支援システムについて意見交換し、構造化知識の改良を行っていく予定です。
この構造化した知識は、将来の支援システムの基盤となり、介護予防リーダーの活動を従来よりも加速させ、支援者の不足を補完でき、介護予防リーダー養成講座をより普及させるものになると考えています。
まちづくり検討会議
地域の介護予防に関わる機関が連携してまちづくりを進めていくために、平成27年度から豊島区で、まちづくり検討会議を行っています。会議の参加者は、介護予防リーダー、豊島区、菊かおる園高齢者総合相談センター、豊島区民社会福祉協議会、区民ひろば西巣鴨第一、大正大学、NPO法人コミュニティランドスケープ、東京都健康長寿医療センター研究所です。
関係機関と住民が一体となって、この地域の介護予防をどう進めていくのかについて話し合いを行っています。この会議で話し合われた課題をもとに、地域に介護予防を根付かせる活動を行っています。